昆虫の凧

各コーナーの内容について

ご紹介している各コーナーの記述内容は、誤りの訂正、表現の修正、追加の記述などを必要に応じて行っています。
なお、大きな修正変更の場合はその内容を明記させて頂きます。

また、今ご覧頂いている、こちら「昆虫の凧」の内容につきましては、公開後も修正や追加する内容が多く、ご報告なしで行わせて頂くことになりそうです。

01.昆虫の凧について

こちらでご紹介する「昆虫の凧」は、伝統的な日本の凧の中からとさせて頂きます
凧の歴史については、当然のことながら、テーマとしては深く広いものとなります。
現在まで記録として伝わっている日本の凧の形は、奈良時代前期以前、または、白鷗期以前からのものといわれ、文献での最古の記録は「肥前風土記」(713年:和銅年間)に記されているものとされています。
この期の文化の多くは朝鮮半島経由を含め、中国からの伝来で、凧についても同様とされています。

その後、日本の凧は独自の発展を遂げ、現在まで伝えられています。娯楽としての凧あげは、もはや、珍しい光景となっています。
しかし、祭りやイベントとしての凧あげは盛んに行われ、工芸品としての凧作りは数多く伝統を維持され、一度絶えた凧が復活することも見られるようになってきました。
ここでは、文献や資料、Web上の情報から、日本の昆虫凧についてご紹介させて頂きます。

今でも熱烈な凧の愛好家は多く、中には独自の凧を製作され、昆虫を象った凧を作り、楽しんでいる方もおられます。
何かの機会にお見受けした時には、ご紹介させて頂きたいと思います。

02.日本の昆虫凧の分布図

日本海側に昆虫をかたどった凧は見当たりません
昆虫の種類ごとに分布図を作ってみました。

日本海側にも多くの凧が引き継がれていますが、昆虫をモチーフにした凧は、新潟県の白根大凧合戦の役凧のデザインにチョウが3カ所の町のシンボルとして使われている以外には、確認できませんでした。

新潟県の蛸(たこ)の凧やカレイ凧、山形県の亀凧などの主に魚類をモチーフにした凧や福島県会津地方の会津唐人凧や島根県松江市のみしや凧、隠岐のえぐり凧など複雑な形の凧もあります。

ここで、空白地域となっている地域に、昆虫の凧が作られなかったかどうかは、断定できません。
むしろ、今に至るまでわずかな記録でも伝わっていることの方が、とても貴重な事のように思えます。

画像を入手できた凧は、その下に製作地名を表示しています。

02-1.せみ凧

分布の傾向
関東地方から西、九州北部にかけて、東西を結ぶ直線状の地域に分布しています。
日本の凧として最も多く記録されている昆虫です。

やや意外なのは、凧合戦も各地で行われ、凧の製作地もとても多い静岡県には、横須賀凧のせみ凧しか確認できませんでした。
多くの凧が作られたのは、セミが凧にしやすく、虫としてもごく身近な親しみやすい存在だったからでしょうか。

せみ凧の形状
種類數が多いことから、その形も製作地ごとに様々です。
特に、はねの部分がよく揚がるように、風袋(かざぶくろ)の構造を持つものが多いのですが、それが無い凧も同じ数ほど確認できました。
また、骨組みは、昔の東京の駄菓子屋さんで一銭凧(より昔は一文凧)と呼ばれるようなとても簡略化されたものから、愛知県名古屋市の古流凧群や静岡県の横須賀凧のせみ凧など複雑な構造をしているものなど、様々な姿になっています。

02-2.あぶ凧

分布の傾向
関東地方と愛知県を中心にした東海地方、そして近畿地方まで確認できました。
愛知県名古屋市に伝わる古流凧は、江戸初期からアブの形が初めに作られ、多くの形が創作されました。
セミに比べ、製作地は少ないものの、今まで確実に作り続けられています。

キャンプなどで、林間を流れる川の近くに夏期に訪れる方は、体験されるかも知れませんが、アブは鬱陶しい虫でしかありません。
最近は、夏の農作業で、アブにまとわりつかれる機会は少なくなりましたが、刺されればとても痛いものです。
これまた、カヤカヤファーマーのしょうもない疑問ですが、迷惑でしかないアブがなぜ凧のモチーフに多くの地域で取り上げられているのでしょう。

なお、日本の凧の起源とされる中国の凧にはアブはとても少ないようです。

あぶ凧の形状
装飾用の名古屋市の縁起凧を除き、風袋(かざぶくろ)を備えています。
骨組みで、風袋の両方の先端で交差させる構造がほとんどです。

なお、神奈川県伊勢原市、厚木市のあぶ凧は元々アブ凧とされていましたが、最近の復活製作では、せみ凧(地元ではセンミ凧)として、伝えられているようです。

02-3.ちょう凧

分布の傾向
昆虫などの種レベルの表現では、稀種となるかと思います。
製作された記録が有る地点はわずかです。

沖縄県那覇市のハビルフータンはチョウそのものの形ですが、凧そのものではなく、揚げる際にタコ糸に取り付けて、糸を伝って凧の方に昇っていく姿を楽しむパーツのような存在です。

ちょう凧の形状
昆虫のチョウそのものの形状をした凧は、江戸時代に著わされた「長崎歳時記」の「蝶バタ」と装飾用の名古屋縁起凧以外は確認できませんでした。

ほぼデフォルメされた形態のものばかりでした。
一見してチョウだとは思えない凧もあります。

滋賀県八日市市の大凧は、開催する年のテーマによってデザインも変わります。
デザインは、願いの意味を表現しており、「チョウ(蝶)+寿+祝」で「長寿を祝う」を表しています。

日本の凧として、ちょう凧は確実に存在しています。
なお、長崎市の伝統行事、ハタ合戦で使われているデザインに、チョウを取り上げたものがあるようですが、入手できませんでした。

02-4.はち凧

分布の傾向
確実に今も製作されていますが、全国的に希少な種となります。

はち凧の形状
あぶ凧に近い形状ですが、名古屋古流凧では唯一の形で、ハチを忠実にかたどった凧が見られます。

また、同じ愛知県安城市の桜井凧は、ご紹介しているはち凧、あぶ凧、ちょう凧が作られていますが、他にも天神凧やからす凧といったすべて風袋を持つやや複雑な骨組みをした凧たちが伝わっています。

こちらで、はち凧としてご紹介している三重県伊勢市の凧は、「おもちゃ画譜(川崎巨泉著 1934年)」に掲載の画像に別資料のカラーを取り込んだものですが、同じ形態の凧が「ふるさとの凧(斎藤忠夫著 1982年)」に新宮の「蝶々凧」として掲載されています。
新宮の凧と伊勢市(旧宇治山田市)の凧には何らかのつながりがあったのでしょうか。

02-5.その他の昆虫凧

改めて、ご説明することではないのですが、むかで、あり、くもは正しくは昆虫ではありません。
いわゆるムシと言えるかと思いますので、ここでは昆虫として扱わせて頂きます。

分布の傾向
昆虫の種そのものがそれぞれ異なりますので、分布の傾向という表現は適さないかも知れません。
ただ、他の昆虫の凧とほぼ同じ地域に分布しています。

その他の内容
ここでは、むかで凧が主要な凧になります。
中国起源の凧であることは、ほぼ間違いないのですが、窓口の長崎以外の東日本でも作られた記録があります。

今回、昆虫の凧をご紹介するに当たり、あらかじめ、存在を知っていたものの、初めて、画像で見た神奈川県小田原市のむかで凧との出会いはかなりの驚きでした。
すでに、昭和初期には作られなくなっていたはずのこのむかで凧は、今、「相模の大凧センター」(神奈川県相模原市南区 れんげの里あらいそ内)で展示されています。

布製の赤く長い舌をつけた、全体の長さが5メートルに及ぶともされるこの凧が、どのような過程で、小田原市で作られるようになったのか、それよりもそもそも売れたのか、興味深いものがあります。

くもの巣凧は、資料からの画像をそのままアップするしかなく、他に説明なども見あたりません。

あり凧は、相坂耕作氏が著わされた、「郷土の昆虫凧」(姫路昆虫同好会 1994年「遊蟲千年」所収)の中で神奈川県秦野市での記録に触れられている以外、確認できませんでした。

大阪市のこつま凧については、元資料の「ふるさとの凧」では、何の昆虫かは示されていないため、種の同定が困難ということで、こちらでご紹介しました。

ちょう凧の資料画像に取り入れた「蝶ばた」の出典資料は、「長崎歳時記」ですが、そこに百足ばた蜻蜓(へんぷう=とんぼ)はたが記録されています。その内容は、今の時点でははっきりと分からないのですが、この2種類の昆虫の凧がかつて長崎市に有ったことは確実かと思います。

03.アイキャッチ画像の答え

ここまででご紹介してきた内容をご覧頂ければ、改めての必要もありませんが、こちらの画像のようになります。

ご紹介してきました内容で、すでに回答はお分かり頂けるかと思います。

てんとう虫は、装飾用の愛知県名古屋市の縁起凧に取り上げられていますが、凧そのものを揚げるのではないので、△と致しました。

そして、ちょっとビックリ!せみ凧やあぶ凧はたくさんあるのに、
日本の昆虫の凧にとんぼ凧はほぼ無いのです。
正直申しまして、今まで「日本にはとんぼ凧が無い」と思い込んでいたのですが、「長崎歳時記」の蜻蜓はたの記述を知り、なぜか、ほっとした気持ちになりました。




この理由をあれこれ考えてずっときましたが、それはもちろん個人で考えるべき範囲での疑問です。
単に気付いただけのこととして、こちらでは、その事実をご紹介させて頂きます。

中国には、多くの種類のとんぼ凧が古くから製作されています。
日本と中国の凧文化の比較、または、昆虫の凧に焦点を合わせた比較につきましては、
改めて付け加えさせて頂きます。

04.中国の昆虫の凧

関連して、アイキャッチ画像で取り上げた日本の昆虫の凧の有る無しを、
そのまま中国の凧に当てはめてご覧いただきます。
(「凧大百科」に掲載されている凧だけを取り上げました)

こちらの画像上の◎の記号は、多くの種類が掲載されている昆虫の凧を表しました。
いなごは「ばった凧」として記録されています。