01.ネアカヨシヤンマとの出会い
茂原市千町の農地をお借りしたのが、2017(平成29)年2月でした。
こちらは、道路から田んぼに挟まれた堤防道のような細い道を通り、イヌマキに囲まれた畑へと入ります。
初めて、この畑を訪れた時、もちろん、冬の季節でしたが、細い道の南側の田んぼとその奥の小さな森が、とてもいい雰囲気の空間だと、一目見て感じました。
このような感覚は、まあ、一種のビョーキのようなものですが、茂原では農作業の忙しさの中では、そのような感覚を覚える機会は、全くありませんでした。
久しぶりの感覚でした。
それは、「夏に何か飛んで来る!」っていうものです。
そして、それは大当たりでした。
ご紹介している各コーナーの記述内容は、誤りの訂正、表現の修正、追加の記述などを必要に応じて行っています。
なお、大きな修正変更の場合はその内容を明記させて頂きます。
その年の6月、確か梅雨の時期の晴れた午前中、畑の上空に一匹のトンボが飛来し、ゆっくりと旋回しました。
ネアカヨシヤンマは、成虫になって間もないしばらくの期間は、このような行動をします。胴体がやや太めのシルエットから、ネアカヨシヤンマだと思いました。
毎日見られるわけではありませんが、数日に一度は飛んできてくれました。
この時期はチコリーの安定的な栽培に試行錯誤していた頃で、とても苦しい毎日でしたが、おかげでホッとできるひとときをもらえました。
梅雨明け以降から8月中旬にかけて、ネアカヨシヤンマの行動は最盛期を迎えます。
夕方になると、何匹かが畑や”いい雰囲気の空間”をエサとなる虫を食べるため、飛び回るようになりました。
このような飛翔行動を「黄昏飛翔(たそがれひしょう)」といい、多くの種類のトンボに見られます。
最初の出会いから、2年後、捕獲用の道具を購入し、2019年7月2日の午前に確保したネアカヨシヤンマのメスの個体です。
まだ未成熟ですが、目の色が濃いブルーになってきて、羽化してからはある程度の日数が経っています。
尾の背面の独特の模様、デザインをご覧頂くために、手を含めた画像となりました。
ネアカヨシヤンマ独特の斑紋です。未成熟な個体のため、並列している斑紋は黄色ですが、成熟すると緑色になります。
もちろん、撮影後、リリースしました。
千町農園に来てくれるのは、未熟な時は、梅雨時期の晴れた日に、畑の上空の高いところでゆっくりと飛ぶ姿と、夏の盛りの夕方に、特に蒸し暑い日など、隣の田んぼと畑の空間をいくつかの個体スピードを上げて飛び回る姿の2つのシーンが見ることができます。
日中でも、農園に来てくれたことは何回かあったのですが、忙しいようで、イヌマキの枝に静止しては別の枝に飛び移りを繰り返し、その内にどこかへ行ってしまいます。
この時期、じっくりと探す時間などありません。偶然に、撮影できましたら、ご紹介します。
来てもらうだけでも、トンボ好きのカヤカヤファーマーにとっては、とてつもない贅沢な癒しであり、只々、感謝です。
畑の上空を飛んでいます。偶然に撮れていました。
他に当サイトでご紹介している、自然と文化のテーマのそれぞれは、茂原市と周辺には、独自性があると思える動機からです。ネアカヨシヤンマもその希少性という意味からも、とても重要な存在だと思います。
身近なところに思いがけない小さくとも豊かな自然が続いている証しです。
現在は、農園に飛来する成虫を確認しているだけで、幼虫の生育場所などは分かっていません。生息の維持を支援できるのであれば、その場所を見つけ、具体的ではなくとも、見守らせてもらえればと思います。
02.ネアカヨシヤンマとは
ネアカヨシヤンマ(学名:Aeschnophlebia anisoptera Selys,1883)は、日本のトンボの中でも大型の種類が多い、ヤンマ科(Aeshnidae)に属するトンボです。
生息環境は、平地から丘陵地の、周囲に樹林のある滞水植物が繁る池沼や湿地、放棄水田などで、「八積湿原」でご紹介した同じ属のアオヤンマより、閉鎖的な水域を好みます。
成虫の出現期は、6月下旬から9月上旬頃で、典型的な夏のトンボです。
メスの産卵は、昼間、単独で湿地などの水辺近くの土や朽ち木に静止して行われます。
卵から幼虫になるまでに2~3週間、幼虫から成虫になるまでには1~2年程度で、気候や環境により左右されるようです。
日本の分布域は、西日本が主体ですが、房総半島には断続的ですが広く生息しています。
全国的には、かなり珍しい種類のトンボです。準絶滅危惧種(NT)に指定されています。
また、海外では、朝鮮半島と中国にも分布していますが、日本以上に珍しいようです。
実は、茂原市千町では、1980、90年代に採集された記録があり、そのことは知っていましたので、縁を得て、千町に畑をお借りすることになった時には、少し期待をしちゃってました。
昔は沼だらけの千町付近、ネアカヨシヤンマはもちろん確実に生息していたでしょう
上の画像の比較地図で確認できるように、明治初期の旧千町村には広大な沼がありました。
八積湿原とほぼ同様な環境で、トンボの宝庫ともいえる地域だったかと思われます。
(農研機構 迅速測図を借用)
実は、2023年は猛暑の影響と、夕方の作業時間が減ったこともあり、ネアカヨシヤンマを見ることができませんでした。
2024年8月24日の午前、千町農園に姿を見せてくれました。ネットを用意し、捕獲して確認しようとしましたが、チャンスもあったのですが逃してしまいました。
イヌマキの枝に静止してくれたので、ネアカヨシヤンマのオスと確認できましたが、程なくゆっくりと飛び去りました。
種としての成虫の出現期の終わりを迎えて、生殖活動として、日中でも木々の間をメスを探して活動しているようです。
少し安堵しました。
03. リーベルとは
完全にこじ付けです
折角、ネアカヨシヤンマが農園に来てくれるのだから、カヤカヤファーマーの代わりにご案内キャラクターとして、手伝ってもらいましょうと考えました。
まずは、「ヤンマの*****」としようと決めました。
和名そのものズバリは意外に言い難いですし、何の工夫もありません。「ヤンマのネアッカー」ですか?農園ですから、ちょっと・・・。
少し知っているスペイン語では、トンボは「libelula(リベルラ eにアクセント記号が付きます)」なのですが、そのままのネーミングにすると、やはりちょっと・・・。
検索サイトでごちゃごちゃやっているうちに、短い文章でしたが、「Liber:リーベル イタリアの古い生産と豊穣の神」に行き着きました。
後先考えず、「ヤンマのリーベル」で決まり!!でした。
紀元前1世紀、共和政時代の古代ローマで発行されたデナリウス銀貨です。
左(表)がバッカス神、右(裏)がリーベル神です。
バッカス神は、ディオニューソス神と同一です。
「World Coin Gallery」サイトより借用
画像の文章は、「ギリシア・ローマ神話辞典」(高津春繁著 岩波書店 1960年〉のリーベルに関する項目です。
生産と豊穣の神であることには間違いないのでしょうが、ここに”同一視”と示されているギリシアの「ディオニューソス」神については、かなり広い内容のご紹介となります。
お時間を頂き、また改めて、こちらのコーナーで、更新、ご紹介させて頂きます。